バリアフリー学習会 報告

新スタジアムは世界基準のバリアフリーに 市民団体が学習会

鹿島アントラーズと水戸ホーリーホックが相次いで新スタジアム建設構想を発表しているのを受け、2日、市民団体「茨城に障害のある人の権利条例をつくる会」(事務局・水戸市)が、「みんなが使いやすいスタジアムをつくろう!」をテーマにオンライン学習会を開催した。「――つくる会」共同代表の生井祐介さんは、「県内の新スタジアムは、東京五輪で実現した世界基準のバリアフリーに沿って建設されるように働きかけていきたい」と話す。

世界から遠い日本のバリアフリー
学習会に参加したのは、障害者や支援者、つくば市議会議員、県議会議員など約30人。世界基準のバリアフリーを満たした国立競技場はどのように実現したのかを、障害者の全国組織であるDPI(障害者インターナショナル)日本会議の佐藤聡さんが説明した。佐藤さんは自身も車いす利用者であり、国立競技場の設計段階から障害者の立場で参画した。
国際パラリンピック委員会(IPC)はバリアフリーの世界基準として「IPCアクセシビリティ・ガイド」を定めており、大会ごとにバリアフリー整備ガイドラインも作成することになっている。東京大会のガイドラインは、当初、東京都条例を基準に作成されようとしていた。しかし、2017年当時、日本のバリアフリー基準で作られ、東京大会の会場になっていた体育館は、車いす席には視線の高さに手すりが設置され、車いす利用者からは試合が見えづらかった。さらに、試合が盛り上がり、前席の観客が立ち上がると、車いすからは何も見えなくなる。世界基準のバリアフリーとは程遠かった。危機感を持ったDPI日本会議は、国会議員を対象に「IPCアクセシビリティ・ガイド」学習会を開催し、世界と日本のバリアフリーの違いを説明した。その結果、「Tokyo2020アクセシビリティ・ガイドライン」は、「車いす席は総席数の0.5%設置し、前席の観客が立ち上がっても視線が確保できるよう、車いす席の床は高くする」「車いす利用者ではないが、補助犬ユーザーや長身などの理由で、広いスペースが必要な人のための付加アメニティ座席を1%設置する」など、世界基準のガイドラインになった。

多様な当事者、対立から協力へ
国立競技場も当初のザハ・ハディド案では車いす席は0.15%しかなかったが、白紙撤回後はDPI日本会議を含めた多様な障害者、高齢者や子育て世帯などの当事者団体の意見を設計段階から反映し、世界基準のバリアフリーを満たした日本初のスタジアムとなった。
「障害者や子育て世帯、高齢者などの多様な当事者が集まることで、意見が対立することもあった。しかし、会議を何回も重ねると、他の当事者のことも理解できるようになる。障害者も子育て世帯も多機能トイレを使いたいなら、多機能トイレを増やせばいいなど、協力して1つの提案を作ったり、互いの妥協点を探したりできた」と佐藤さんは振り返る。
学習会の参加者からは「自治体でバリアフリープランを作る際も、障害者だけでなく、高齢者や子育て世帯など、様々な当事者が一緒に議論することで、より良いものになるのでは」という感想が聞かれた。

車いす席を設置したのに活用されない
Tokyo2020アクセシビリティ・ガイドラインは世界基準だったが、国内のバリアフリー法には反映されておらず、策定後もガイドラインに沿っていないスタジアムが国内には建設されている。また、国立競技場はガイドラインに沿って建設されたが、施設の運用マニュアルまでは作成できなかった。施設運営者とイベント主催者は異なるため、車いす席や付加アメニティ座席の販売方法などを伝えるマニュアルがないと、せっかく作った席を必要な人に届けられない。「茨城に新しいスタジアムを作る際は、Tokyo2020アクセシビリティ・ガイドラインを踏まえつつ、設計から完成までの各段階、完成後の運用マニュアル作成まで多様な当事者の意見を反映させてほしい」と佐藤さんは期待する。
「つくば市内の施設でも、せっかく車いす席が設けられているのに、その認識がイベント主催者に共有されていないため、車いす席が有効に活用されていない事例を聞く。設置者が施設を貸し出す時に使用方法を伝えることが大切だと改めて思った」と参加したつくば市議会議員は話す。(川端舞)